the sakeraku. | 蔵女について | No.3 長谷川祐子 氏

柔らかで丸みを帯びた口当たり、お米の旨みを感じながらも程よい辛さが心地よいすっきりとした後味。目の行き届く範囲でしか造らない、小さな地酒蔵だからできる小タンク仕込みに、蔵人・従業員一同が最高のパフォーマンスを注ぐ。それが長谷川酒造の酒造りです。 女性蔵元の長谷川祐子氏は、この長谷川酒造で先人たちの熱い思いを絶やさぬよう杜氏、蔵人と一丸となり、酒蔵の伝統と味を守り続けています。
写真左が長谷川祐子氏
長谷川酒造は新潟県長岡市 摂田屋にある小さな酒蔵です。酒造りにめぐまれた環境のなか、機械に頼らない手作業にこだわり、お食事や宴との調和を大切した酒を醸しながら、約180年という年月の間、地域に愛され、人に支えられながら数々の困難を乗り越えてきました。
江戸・天保時代、飢饉により各地で厳しい倹約令が出ているなか、摂田屋の酒蔵は「お神酒づくり」の名目で酒づくりが許されてきました。その五軒のうちの一軒が長谷川酒造です。国の登録有形文化財にも指定されている母屋は明治19年(1886年)に、醸造蔵は大正8(1919)年に建てられたもので、新潟県中越地震で一部が倒壊したものの、多くはその姿とはたらきを、そのまま残しています。

長谷川酒造の酒はほとんどすべての工程を手づくりで行います。杜氏、蔵人たちは、その年採れた米の魅力を最大限に引き出すため、敏感に季節の変化を感じ取り、知恵と勘を絞り出して酒を醸していきます。 だからこそ、同じ気候の年が一度もないように、酒の味も年ごとにゆらぎます。この蔵には、その年にしか生まれえない、ただ一度きりの酒が息吹くのです。
新潟県は日本全国でも有数の豪雪地帯。深い雪は良質な米と豊富な水をもたらします。長岡市は、冬の日照時間が短く昼夜の気温差が少ないという、古来より名酒づくりの基本条件とされる「寒仕込み」に適した環境に恵まれています。 新潟県は醸造試験場や清酒学校など酒づくりを学ぶ場も整っており、特に長岡は新潟県内でも最多の酒蔵数を誇る地域。古から現代に到るまで、杜氏の技が磨かれてきた場所でもあります。
長谷川酒造ではすべての酒を信濃川の伏流水で仕込んでいます。信濃川には、長野県では八ヶ岳、槍ヶ岳、穂高岳など日本百名山とも称される山々の水が、新潟県ではさらに長岡東山連峰の水が流れ込んでおり、名水をかけあわせた伏流水は口当たりの良い、柔らかな軟質。この水でつくる酒は、雑味のない澄んだ味わいになります。 酒米には、新潟県産はもちろん、自分たちがおいしいと思うお米を厳選して使用しています。その年採れた、それぞれの米の魅力を最大限に引き出すため、杜氏、蔵人が工夫を凝らしています。
精米された米は、傷つけることのないよう手で洗います。蒸米にはスチームではなく和釜を用い、蒸時間は杜氏の培った長年の勘と蓄積された分析データに従います。その他、麹づくりはもちろん、すべての工程において、人の手で丁寧につくるということを大事にしています。 小さいタンク、こじんまりとした蔵。目の届く範囲で我が子を育てるように、慈しみながらおいしいお酒を育てる酒造りです。

杜氏、蔵人たちは、その年採れた米の魅力を最大限に引き出すため、敏感に季節の変化を感じ取り、知恵と勘を絞り出して酒を醸していきます。味を整えるためのブレンド作業もしていません。だからこそ、同じ気候の年が一度もないように、酒の味も、年ごとにタンクごとに、豊かにゆらぎます。その豊かな違いをたのしむのも日本酒を味わう醍醐味の一つです。          




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